2021-08-22 20:34:14
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私はある日に怪我をした可愛いウサギを見つけた。
真っ白なふわふわした毛並みにピンと立った耳。真っ赤な目はまるでルビィのようだ。けどアスファルトの道の片隅でじっと動かない。どうしてなのか?
私は不審に思ってウサギに近づく。右の前足に赤い血が滲んでいる。しゃがみ込んでよく見ると斜めに走った切り傷があった。
「君。前足を怪我していたのね」
そう呟いた。辺りを見回すも誰もいない。人の気配すらなくて困惑する。少し逡巡したけど。今は午後四時過ぎで日はまだ昼間の様相を残していた。初夏だからまだまだ明るい。私は仕方ないとため息をつく。再び立ち上がってウサギに近づいた。素手で触るのは本当はダメだが。背に腹は代えられない。私はカバンを腕に引っ掛けた。しゃがみ込んでそっと両腕を伸ばす。ウサギを警戒させないように下にあるお腹や尻尾に近い辺りに両手を差し込んだ。慎重に抱え上げる。胸元にまで持っていくとゆっくりと立ち上がった。
「……ごめんね。傷の手当をするだけだから」
ウサギは不思議と暴れずに大人しくしている。私はゆっくりと歩いて自宅に向かった。
自宅に帰り着くと出迎えてくれた母さんにウサギを見せた。
「……あらあらまあまあ。可愛いウサギだけど。美姫、どこで見つけてきたの?」
「……道端で見つけたの。その。前足に怪我をしているから。手当だけでもしてあげようと思って」
「そう。けどね。この子は獣医さんに連れて行った方がいいわね。仕方ないわ。母さんも一緒に行くから。ちょっと待ってて」
「……ごめん。応急処置はしておくね」
「……かえってしない方がいいかもしれないわ。急いで準備をするから」
母さんに言われて仕方なく頷いた。準備ができるまで待った。
二十分もしない内に母さんは準備を終えた。ダンボール箱にタオルを敷いてウサギを入れる。嫌がらず、大人しくされるがままだ。母さんは車庫にある自動車を運転して出す。私は外に出て自動車の後ろのドアを開けた。ダンボールハ箱を後ろの座席に乗せる。左側に押しやると隣に座った。
ドアを閉めると母さんは右折して自動車を走らせた。しばらく経って獣医さん――アルテミス動物病院にたどり着く。
「……着いたわ。混んでなければいいんだけど」
母さんが呟いた。駐車場に入ると空いたスペースに停めた。私は先に出てウサギが入ったダンボール箱を両手に抱える。母さんもカバンや鍵などを持って車から出た。病院の白い建物に向かう。自動ドアを潜って待合室に入る。母さんが受付に向かい、事情を説明した。
「……あの。私達、今日が初診なんです。実は娘が道端でウサギを拾ってきまして。捨てられていたようなんです。右の前足に切り傷があったので連れてきました」
「……そうなんですか。ウサギが道端に捨てられていて。怪我をしていたと。わかりました。診察券を今から作りますので。順番がくるまでお待ちください」
「わかりました」
母さんは頷くと私を手招きした。一緒にソファーに向かう。しばらくダンボール箱を抱えたままで座りながら待つ。すると助手さんが私達の名前を呼んだ。
「朝霧さーん!」
「……はい!」
私は返答すると母さんと一緒に診察室に入る。助手さんが2名と先生が待ち構えていた。
「……初診のウサギちゃんですね。この台に乗せてあげて。藍原さん、伊東さん」
先生が藍原さん、伊東さんと言うらしい助手さん達に指示を出す。私はダンボール箱からウサギを抱き上げると助手さん達に託した。左側の藍原さんが受け取って処置台にウサギを乗せる。
「うーん。どれどれ。右の前足に切り傷があるね。伊東さん、ピンセットと脱脂綿を」
「はい!」
伊東さんが手早くピンセットなどを用意して先生に手渡す。先生は脱脂綿をピンセットで摘まんでウサギの前足の負傷した所を消毒した。染みて痛いのかウサギはビクビクと体を震わせる。
「……あー。痛いね。大丈夫。怪我は浅いから縫わなくてもいいですよ。念の為に痛み止めと化膿止めを出しておきますね」
「ありがとうございます」
「はい。消毒は終わりました。藍原さん、ガーゼと包帯を」
藍原さんは先生の再びの指示でガーゼと包帯を用意した。伊東さんがガーゼを傷口に当てる。傷用テープで留めると包帯を巻く。
「手当は終わりましたよ。また、怪我の状態を見たいので。明日もいらしてください」
「はい。本当にありがとうございました」
母さんが深々と頭を下げた。待合室に再び行ったのだった。
受付でウサギ用の診察券を作ってもらう。お金を母さんが支払ってくれて私は2週間分のお薬が入った紙袋を受け取った。ダンボール箱に入れたウサギをまた抱えてアルテミス動物病院を後にした。
自宅に帰ってからは母さんと2人でウサギ用のキャベツやニンジンを用意した。ウサギにあげてみる。キャベツをモシャモシャと食べた。けどニンジンの方が食べるスピードが速い。私はニンジンになぞらえてキャリィと名付けてみる。こころなしかウサギもとい、キャリィは耳をピクピクさせて嬉しそうだ。
「怪我が治るまではうちにいてね。キャリィ」
声をかけるとルビィのような眼でじっと見つめてきた。可愛くて不意に背中を撫でたのだった。
2週間後、無事にキャリィの怪我は綺麗に治っていた。すっかり我が家の一員になっていたキャリィだけど。怪我が治るまでという両親との約束がある。元の場所――あの道端にキャリィを抱えて行った。
「……ごめんね。さようなら。キャリィ」
『……うん。さようなら。美姫ちゃん』
頭の中に不意に小さな女の子らしき高らかな声が響いた。驚いてキャリィを見る。
「もしかして。キャリィなの?」
『そうだよ。あたしね、美姫ちゃんには本当に感謝しているよ。怪我が痛くてお腹も空いてて。そんな時に美姫ちゃんが助けてくれたの。今まで本当にありがとう。もう会えなくなるけど。元気でいてね!』
「……うん。私もキャリィと一緒にいられて楽しかったよ。元気でね」
『……あ。もう帰らなきゃ。さようなら。美姫ちゃん』
「さようなら。キャリィ」
私はホロホロと涙を流しながらもキャリィに手を振った。キャリィはタンタンと後ろ足を鳴らすと金や真っ白な綺麗な光の粒に包まれながらすうと姿を消す。しばらくすると辺りは再び静寂に包まれる。私は流れた涙を袖で拭う。空を見上げて深呼吸をした。そして自宅に戻ったのだった。
――終わり――
いかがだったでしょうか。キャリィちゃんとミキティーとの短編にしてみました。出番がなかった他のメンバーにはミキティーが後で話して聞かせたのでしょうね。
お読みいただき、ありがとうございましたm(_ _)m
イリエッティさんもFSSだと!?
しかも喋るウサちゃまとの不思議な邂逅!
だがしかしウサギである……
そう言えばもう過ぎましたけど、8月21日は『バニーの日』らしいのです。
つまりこれは、バニーのミキティーが見たいと言う暗示が込められたFSSですか!