2022-10-05 10:09:46
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コメント(2)
おはようございます。
今日は「千の夜」のたかこさん達の紅葉狩りの一幕を書いてみたいと思います(*‘ω‘ *)
楽しんで頂けると幸いです(*´ω`*)
それではいってみましょう!
こちらになります。⬇
あたしは友成と結婚してから一年が過ぎていた。
今は十月になり秋真っ盛りになっている。友成や兄君の宗明様、北の方の葛姫(かずらひめ)、友成や宗明様の妹君の三人、さらにはあたしのいとこの典子姉様も加わって洛南に行く事になった。ちなみにあたし付きの女房である鈴鹿や高倉侍従なども一緒だ。
京の洛南は宇治にある兵部卿宮様――友成や宗明様方五兄弟の父君様が所有なさっている別邸にて集まっていた。
あたしや葛姫、基子姫や久子(ながこ)姫、頼子姫に典子姉様の六人で別邸のお庭に植えられている楓や桜紅葉を眺めている。
「……綺麗ですね。香子(たかこ)様」
「本当にね。見事な紅葉だわ」
「ふふっ。葛姫も香子姫も今日は良うございましたね。兵部卿宮様の別邸に行けて」
「ええ。お付き添いして頂き、ありがとうございます。藤壺様」
「葛姫。わたくしの事は名前でお願いします。後宮での呼び名を誰かに聞かれたらいけないしね」
「わかりました」
葛姫が生真面目に頷く。藤壺女御様――典子姉様は実は今上帝のお妃様だ。今日はお忍びという事でこちらに行幸なさっている。
あたしは苦笑いしながらも今度は義妹で現東宮妃の久子姫(世間では梅壺女御と呼ばれている)や姉で同じく義妹の基子姫を見た。基子姫はあたしの実弟の義隆の北の方だ。
「……姉様。中でじっとしているのも退屈ですね」
「な、女御様。今は我慢してください」
「そんな事を言ったって。東宮妃ともなると身軽に行動も迂闊にできませんの。その点は姉様や香子様達が羨ましいわ」
「梅壺様。でしたら。このお庭の紅葉を絵になさいますか?」
「絵に?」
「はい。女御様は絵がお好きでしょう。だからお描きになってはと思いまして」
基子姫がにっこり笑いながら言った。典子姉様も興味があるのか久子姫を見ている。しばし考えた後で久子姫は頷いたのだった。
あたしは典子姉様や久子姫とこの場で別れた。葛姫や基子姫、頼子姫との四人でお庭に出る。既に先客がいた。我が夫の友成に宗明様、義隆の三人だ。やはり宮中の人気を二分する美公達が並ぶと絵になる。
ちなみにあたしや女性陣は扇や被衣物(かずきもの・着物を頭から被る事)で顔などを隠していた。
「やあ。庭に出ていたんだね。香子」
「うん。紅葉が綺麗だったしね」
「それはそうだね。こんなに見事な紅葉は久しぶりだよ」
世間話をしながら友成と二人でゆっくりと歩き始めた。宗明様は葛姫と、義隆は基子姫と各々楽しんでいるようだ。残された頼子姫が気になりあたしは振り返る。
「……頼子姫。あなたもいらっしゃいな」
「いいのですか?」
「いいのよ。一緒に散策でもしましょ」
「……わかりました。行きます」
「ええ。後で久子姫の絵を見せて頂きましょうよ」
「そうですね。今から楽しみです」
頼子姫はにっこりと笑う。近くまで来ると片手を握ってあげた。頼子姫は驚きながらも振り解こうとはしない。三人でゆっくりと散策を再開したのだった。
夕方になるまで錦絵のような風景を楽しんだ。夜になりあたしは頼子姫や友成と別邸の中に戻る。まだ、篝火が焚かれているので葛姫や基子姫はそれぞれの夫君と一緒にお庭にいるらしい。
「……お腹が空きました」
「本当にね。遅いけど。夕餉にしましょうか」
「そうだな。女房を呼んでくるよ」
友成が気を利かせて部屋を出ていく。途端にあたしと頼子姫の二人きりになる。
「香子様。今日はわが家の別邸に来てくださりありがとうございます。すごく楽しかったです」
「あたしも楽しかったわ。また、機会があったら誘ってね」
「ええ。来年もいらしてくださいね!」
あたしは可愛らしいわと思いながら頷いた。頼子姫に近づくと頭をつい撫でていた。やはり嫌がらない。それにほっとしながらも撫で続けた。
夕餉を済ませてから頼子姫は自室に戻っていく。友成と同じ寝室で休む。鈴鹿に手伝われながら寝巻に着替えた。友成も既に寝巻姿になっている。
「……それじゃ。寝ようか」
「うん。今日は別邸に連れて来てくれてありがとう。久しぶりにゆっくりできたわ」
「そっか。そう言ってもらえて嬉しいよ。明日も紅葉を見ながら散策をしよう」
「そうね。思う存分、楽しまないと損するしね」
「ああ。来年も一緒に来よう。さ。もう寝ようか」
頷いて御帳台の褥に横になる。友成が添い寝をしながら後ろから抱きしめてきた。暖かい中で眠りについた。
数日後に久子姫の絵が仕上がり都の一条大炊宮(いちじょうおおいのみや)にあたしは来ていた。友成は宮中に出仕でいない。
「……香子様。よくぞいらしてくださいました」
「ええ。紅葉の絵が仕上がったと御文にありましたから」
「そうなんです。下絵に色もつけてみました。私が全て手ずから仕上げましたの」
久子姫はそう言うと女房に目配せをした。素早く女房は立ち上がり両手に持っていた巻物を畳の上に広げる。
「……これは」
あたしは不意に呟く。けどそれ以上は言葉が出ない。目の前には鮮やかながらも奥ゆかしさを感じさせる見事な絵が描かれていた。久子姫の力量はかなりのものだと思ったのだ。
「紅葉の一枚一枚が細やかに描かれていますね」
「そう言って頂けたら。描いた甲斐がありました」
「ええ。見事だと思います」
久子姫は嬉しそうに笑う。あたしはその後も絵巻物に見入った。しばらくはポツポツと話をしたのだった。
――終わり――
いかがだったでしょうか。
SSはこれにておしまいになります。
お読みいただき、ありがとうございました(_ _)
労いのお言葉をありがとうございます!
普通?のブログも書かねばと思いました(^^ゞ